「マーケの担当者はいる。発信も続けている。それなのに、問い合わせが増えたのかどうかも分からないし、やりたい施策はずっと積み残されたまま」——BtoB企業から最も多く聞く悩みの一つです。この記事では、当社が実際にある専門特化型の設計事務所(匿名)へ提案し支援を開始した案件を素材に、12ヶ月の実測データから何が分かったか、なぜ施策より先に直すものがあるのか、担当者が判断に集中できる運用をどう設計したかを解説します。読み終えたとき、自社の場合の「最初の一手」が判断できることをゴールにしています。

担当者が怠けているわけではない——実測が示した本当の現在地

この事務所は、特定用途の施設に特化した設計を手がけるBtoB企業です。マーケティングの担当者を置き、外部の協力者とも分担しながらコラムを週2本更新するなど、発信量は決して少なくありません。やりたいことも明確でした。それでも「数字を見て打ち手を決め、実行し、検証する」ところまでは手が回らず、運用は感覚的になっている——これがご相談時の自己認識でした。

当社はまず、Search ConsoleとGA4の12ヶ月分の実測データとサイト全ページの診断から入りました。最初に確認できたのは、むしろこれまでの頑張りの成果です。

  • セッション数は1年で約2.4倍に成長していた
  • 社名などの指名検索では検索1位を安定して取れていた
  • AIクローラーの到達性を8種類で実測したところ、すべて正常にページを読めていた

つまり「サイトが悪い、担当者の努力が足りない」という話ではありません。診断から言えたのは、足りないのは受け皿・計測・検討初期の解説の3点だけ、ということでした。問題は人ではなく、頑張りを成果に変換するしくみの側にあります。この絞り込みができると、限られた時間でも打ち手に集中できます。

実測で見つかった「もったいない」の構造

商用キーワードは表示されているのに、受け止めるページがない

Search Consoleの実測で、業種の商用キーワード群(「〇〇 設計」のような、発注検討者が検索する語)が年間1万回以上表示されていることが分かりました。需要は確実にあります。ところが、これらの検索がすべてトップページに着地しており、専用の受け皿ページが1枚もないため、順位は検索2ページ目に滞留。筆頭のキーワードは年間3,000回以上表示されながら、クリックは年間十数回しかありませんでした。

興味深いのは、検索ボリュームの推計ツールではほぼゼロと出るキーワードが、実測では年間1,500回以上表示されていたことです。推計ツールだけで優先順位を決めていたら、この需要は見落とされていました。Search Consoleに接続している限り、優先順位は推計ではなく実測で決められます。

アクセスの過半が、商売と無関係の検索だった

一方で、表示回数の内訳を見ると、過半は事業とまったく関係のない一般語——ことわざや慣用句を解説したコラム記事——が占めていました。関連の記事群を合算すると年間5万回以上の表示があり、しかも訪問後のエンゲージメント率は5%前後。つまり、アクセス数のグラフが右肩上がりでも、その中身は商売に接続していなかったのです。

これは「その記事が無駄」という話ではありません(書き手の人柄が伝わる資産として導線を足す設計にしました)。教訓は、アクセス数という合計値だけを見ていると、頑張りが成果に接続しているかどうかを判断できないということです。

コンバージョン計測ゼロ——どの施策が効いたか、誰も答えられない

最も重大な発見は計測でした。問い合わせフォーム自体は存在するのに、GA4のキーイベントが未設定でコンバージョン計測は実質ゼロ。フォームには流入経路を引き継ぐ仕組みがなく、送られてきた問い合わせがどの施策から来たのかCRM側でも分かりません。さらに広告専用のランディングページにはフォームそのものがなく、年間数百セッションの広告流入が成果につながったのか検証不能でした。

この状態では、SEOで何位を取っても、広告に何万円かけても、成果は1件も数えられません。「どの施策が効いたか」を誰も答えられない構造が、感覚的運用の正体です。担当者にどれだけ意欲があっても、この構造の上では検証のしようがないのです。

AI検索の実測——「検討初期」が完全な空白だった

この案件では、AI検索での見え方も実測しました。見込み客が尋ねそうな10の質問を3つの生成AI(ChatGPT・Gemini・Perplexity)に投げ、回答に事務所が登場するかを記録する方法です(結果はその日の観測であり、AIの回答は日々揺らぐ点に注意が必要です)。

結果には明確なパターンがありました。地域名を入れた業者探しの質問では3つのAIすべてに登場した一方、「建て替えと改修はどちらがよいか」「費用や補助金はどうなるか」といった検討初期の質問では、一度も登場しませんでした。同業で最も多く引用されていた会社との差を調べると、受賞歴や知名度の差ではなく、検討初期の疑問に答える解説コンテンツの量の差でした。

なお、AIの回答への掲載を保証する方法は存在しません。AIの回答を意図的に操作する行為は、Googleがスパムに関するポリシーで明確に否定しています。できるのは、引用される確率を構造とコンテンツで高め、結果を定点観測することだけです。

重要なのは原因の切り分けです。技術面の実測では、AIのクローラーは8種類すべてがサイトに正常到達しており、本文も読める状態でした。つまり原因は技術ではなく、答えになる文章がサイトに無いことに一意に絞り込めます。これは裏を返せば、知名度の問題ではなく、書けば取りに行ける領域だということです。AI検索対策の具体的な進め方はLLMOとはAI SEOとはに詳しくまとめています。

立て直しの順番は「受け皿→計測→集客」

ここまでの発見を打ち手に変換するとき、当社が最も重視したのが順番です。結論として提案したのは「受け皿→計測→集客」の順でした。

なぜ計測が先か。理由は単純で、ビフォーの数字は施策を始める前にしか取れないからです。改善施策が動き出してから「そういえば効果はどう測る?」となっても、比較対象がありません。計測の開始だけは、他のどの施策よりも先である必要があります。

この案件で初月に設定した構築項目は、チェックリストとしてそのまま使えます。

  1. AI経由の訪問(ChatGPT等からの流入)をGA4で識別できるようにする
  2. サイトマップの不整合・リンク切れなど土台の修正指示書を作る
  3. 既存フォームに流入経路(参照元・経由ページ)を自動で引き継がせ、CRMに記録する
  4. 広告ランディングページにフォームを設置する
  5. フォーム送信・電話タップ・資料ダウンロードをGA4のキーイベントに設定する
  6. アクセス解析・検索データを1画面に集約した統合ダッシュボードを作る(過去12ヶ月分を先に入れ、初月から前年比較で見られるようにする)
  7. サイト来訪者の行動スコアリングを設定し、検討が動いている見込み客を毎月見えるようにする
  8. 問い合わせ対応の進捗を管理するカンバン(受付→有効判定→対応→商談化)を整える

受け皿ページの新設や検討初期コンテンツの執筆といった集客施策は、この土台の上で2ヶ月目以降に積みます。

やりたい施策が実行に落ちる運用の設計

しくみだけ作っても、担当者が分析やレポート作成に埋もれたままでは、施策は前に進みません。この案件で設計した運用には、「担当はいるのに実行が追いつかない」組織に共通して使える原則が4つあります。

  • 役割を「作る側」と「判断する側」で分ける — しくみの構築・レポート作成・基準の調整は支援側とAIが担い、担当者を集計・レポート作業から解放する。自社側は判断と顧客対応に集中し、作業は月3時間までと上限を明示。それを超える依頼は事前に見積もる
  • 1画面で全部見える状態を作る — 問い合わせ件数(経路の判明率つき)、電話タップ、AI経由の訪問、検索の表示回数を統合ダッシュボード1枚に集約する。複数ツールへのログインが必要な状態では、確認は必ず止まる
  • 数値目標は2段階で決める — 初月はベースラインの計測に徹し、目標は実測を見てから2ヶ月目に設定する。最初から数字を約束しない
  • 終わり方まで先に決める — 支援終了時、フォーム・計測設定・ダッシュボードはすべて顧客の資産として残る設計にする。ベンダーロックインの回避は、始める前に確認すべき項目です

既存の仕事のやり方を壊さないことも重要です。この案件では、サイトの見た目・URL・更新方法は現状のまま、既存のフォームとCRMの連携も壊さない形で設計しています。立て直しは全面リニューアルを意味しません。担当者がこれまで続けてきた発信を止めることでもありません。むしろ、その発信を成果に変換する土台を敷く作業です。

この進め方が向く会社・向かない会社

向いている会社 — マーケ担当や広報担当がいて、発信の資産(記事や実績ページ)が既にある。問い合わせの単価が高く1件の価値が大きい。担当者の「やりたいことリスト」が積み残されている。この条件なら、実測→土台→集客の順で、担当者の頑張りを成果に接続する改善サイクルを立ち上げられます。

向かない会社 — サイトにコンテンツがほぼ無い場合は、測る対象が無いため先にコンテンツの土台づくりが必要です。また、月数時間の判断の時間すら取れない場合は、どんなしくみも定着しません。

自社の現在地を知りたい方は、BtoB Webサイト AI対応無料診断で検索とAI検索での見え方を確認できます。伴走型の支援はAI Web-tanを、マーケ×AI活用の全体像はBtoBマーケ×AIサービスをご覧ください。

まとめ

  • 施策が回らない原因は担当者の努力不足ではなく、頑張りを成果に変換するしくみの不在にある
  • アクセスの合計値ではなく内訳を見る。表示の過半が商売と無関係なら、頑張りは成果に接続していない
  • AI検索の空白は検討初期の質問に集中しやすい。到達性を実測で潰せば、原因は「答えになる文章の不在」に絞り込める
  • 順番は受け皿→計測→集客。ビフォーの数字は施策開始前にしか取れない
  • 担当者を分析・レポート作業から解放し、判断と実行に集中させる役割分担で、やりたい施策が前に進み始める

よくある質問

マーケティングの人員を増やせば解決しますか?

増員より先に計測としくみを整えることをお勧めします。計測が無い状態で人を増やしても、何が効いたか検証できない作業が増えるだけです。逆に計測とダッシュボードが整っていれば、いまの担当者が月数時間の確認と判断で改善サイクルを回せるようになり、増員する場合も立ち上がりが速くなります。

ChatGPTなどのAI検索に自社を出す方法はありますか?

掲載を保証する方法は存在しません(AI回答を操作する行為はGoogleがスパムポリシーで否定しています)。できるのは、見込み客が検討初期に尋ねる質問に答えるページを作り、AIが引用しやすい構造で公開し、実際の回答への登場数を定点観測することです。評価は率の上下ではなく「0問→1問→3問」のような登場数の前進で見ます。

現状分析だけなら自社でできますか?

できます。最低限見るべきは3点です。①Search Consoleで表示回数の多いクエリを商売に関係する語と無関係な語に仕分ける、②商用クエリに専用の受け皿ページがあるか確認する、③GA4でフォーム送信がキーイベントとして計測されているか確認する。この3点だけで、打ち手の順番はおおよそ決まります。

ブログを頑張っているのに成果が出ないのはなぜですか?

記事の主題が商用クエリに接続していない可能性が高いです。実測を見ると、読まれている記事と問い合わせにつながる記事は別であることが珍しくありません。まず実測で「勝てている記事」と「商売につながるクエリ」を突き合わせ、主題を絞って書くのが先です。原因の全体像は問い合わせが増えない5つの原因の記事にまとめています。

宮村佳祐

この記事の著者: 宮村 佳祐(株式会社etika 代表取締役)BtoBメディアとMAツール「リストファインダー」の立ち上げ・事業拡大を経て、ニッチな強みを持つBtoB中小企業の売れる仕組みづくりを支援。プロフィール詳細 →