CRM・SFAの定着診断(ログ診断)とは、CRMに残っている更新履歴から、誰がいつどの案件を更新したかを数え、現場でCRMが実際に業務に使われているか(定着率)を確かめる方法です。アンケートや「使っていますか」という聞き取りではなく、データに残った操作の跡で判断します。

「CRMを入れたのに、使われていない気がする」。この感覚は多くの会社で聞きますが、誰が使っていないのか、どの項目が入っていないのかまで分かっていることは多くありません。この記事では、私たちが支援先で定期的に行っている更新履歴の診断について、見る観点と読み方を手順にまとめます。福岡の不動産仲介会社A社では、この診断を1〜2週間おきに繰り返し、定例会議の材料にしてきました。この記事では支援先の数値は載せず、方法と読み方だけを紹介します。

CRMが定着しない原因そのものと立て直し方は、CRMが定着しない7つの原因と立て直し方で解説しています。この記事はその「測り方」の編です。

CRMの定着率は、なぜログイン数より更新履歴で測るのか?

定着の度合いを測る方法はいくつかあります。それぞれに弱点があります。

方法分かること弱点
アンケート・聞き取り本人の感じ方「使っています」と答えやすく、実態とずれる
ログイン回数画面を開いたか開いて眺めるだけでも数えられる
レコードの総数登録されたデータの量誰が入れたか、いつ入れたかが分からない
更新履歴誰が・いつ・どの案件を更新したか一括処理や代行操作を除かないと読み違える

更新履歴は、業務の中でCRMが使われた跡そのものです。案件のステージを進めた、活動を記録した、項目を埋めた——こうした操作は、多くのCRMで「最終更新日時」と「更新者」として残ります。弱点は、人の操作でない更新も混ざることですが、これは手順の中で除けます。

更新履歴で定着率を測る8つの手順

1. 対象と期間を決める

まず、どのモジュール(商談、見込み客、連絡先、活動など)を見るかと、期間を決めます。最初は商談を主軸に、直近30日から始めるのがおすすめです。30日は月次の振り返りと合わせやすく、営業の動きが一巡する長さでもあります。

複数のモジュールを見る場合は、モジュールごとに分けて集計してください。見込み客は毎日動いているのに商談はまったく動いていない、という片寄りは、モジュールを分けて初めて見えます。この片寄りの事例は、既存顧客の引き合い管理がCRMから漏れる理由で紹介しています。

2. 直近に更新されたレコードを全件取り出す

最終更新日時が期間内のレコードを、全件取り出します。取り出す項目は次のとおりです。

  • 担当者(そのレコードの持ち主)
  • 更新者(最後に更新した人)
  • 作成者と作成日時
  • 最終更新日時
  • ステージ(商談の場合)
  • 入力状況を見たい主要な項目

APIを使えば自動で取り出せますが、一覧の書き出し機能でも構いません。ただし、どちらの方法でも「更新者」と「担当者」の列が取り出せるとは限りません。この2つが取り出せないと手順4以降の診断ができないため、最初に確かめてください。件数が多い場合は、取り出しの上限で途中までしか取れていないことがあります。当社が使っているCRMでも、件数が一定を超えると別のページ送りの方法が必要でした。取り出した件数が、CRMの画面で絞り込んだ件数と合っているかを必ず確かめてください。

3. 人の操作でない更新を除く

ここがいちばん大切な手順です。次の3種類の更新は、現場の人が使った跡ではないので、集計から外します。

  1. 一括処理:データ移行や一括更新を行うと、大量のレコードの最終更新日時が同じ時刻になります。同じ秒に数十件以上が更新されていれば、人の手ではないと判断できます。
  2. 管理者や代行担当の操作:Webからの問い合わせの登録や、データの整理を管理者がまとめて行っている場合、その件数が現場の動きを覆い隠します。
  3. 外部連携による自動登録:フォームや他のシステムからの連携で作られたレコードは、すべて同じアカウントが作成者になります。これを含めると「現場は誰も起票していない」と読み違えます。

除くかどうかの判断は、会社ごとに違います。管理者の権限を持つ人が現場の営業も兼ねている場合もあるからです。誰を除いたかを必ず記録し、次回以降も同じ条件で集計してください。

4. ユーザー別に「件数」と「稼働日数」を並べる

残った更新を、更新者ごとに数えます。このとき、件数と並べて何日操作したか(稼働日数)を出します。

件数だけでは、まとめて大量に閉じた日がある人が上位に来ます。稼働日数が多い人は、毎日の業務の中でCRMを開いている人です。社内の「お手本」を探すなら、件数より稼働日数を見てください。

あわせて、1人のユーザーが全体のどれくらいを占めているかも見ます。特定の1人に更新が集中していれば、その人が止まるとCRM全体が止まる、という依存の状態です。

5. 「担当者」と「更新者」のずれを見る

担当者(案件の持ち主)と、実際に更新した人が一致しているかを見ます。更新者×担当者の表を作ると、「誰が誰の案件を更新しているか」が分かります。

ずれが多い場合、次のどれかが起きています。

  • 事務担当や上司が、営業の代わりに入力している(代理入力)
  • 部署やチームで共有のアカウントが担当者になっている
  • 引き継ぎで担当者が替わったのに、持ち主が更新されていない

共有アカウントが担当者になっていると、誰が更新しても必ず「ずれ」になります。この場合、ずれを減らすには入力のしかたではなく、担当者の付け方そのものを見直す必要があります。

6. 「一度も触っていないユーザー」を洗い出す

CRMのユーザー一覧と、期間内に更新した人の一覧を突き合わせ、期間中に一度も更新していないユーザーを洗い出します。

特に注目すべきは、本人の担当する案件は動いているのに、本人は一度も更新していないユーザーです。誰かが代わりに入力している可能性が高く、手順5の代理入力と重なります。

この突き合わせは、手作業で一度は検算してください。私たちも、集計を自動化した仕組みでユーザー一覧との照合がうまく働かず、未稼働のユーザーが「いない」と出てしまったことがありました。生のデータの更新者を全件確かめて、初めて正しい一覧が出ました。「未稼働ゼロ」という結果が出たときほど、疑ってみる価値があります。

7. 項目ごとの入力率を見る

主要な項目が、どれくらいの割合で埋まっているかを出します。全体で1つの数字にするのではなく、担当者ごと・入力画面(レイアウト)ごとに分けて出すのがコツです。同じ項目でも、ある担当者は必ず入れているのに別の担当者はほとんど入れていない、という差が見えます。

入力率が全員ほぼゼロの項目は、入力のしかたの問題ではなく、業務の中にその項目を入力する場面がない可能性があります。紙や口頭、別のシステムで完結している情報です。

8. ステージの分布を見る

期間内に更新された商談が、どのステージにあるかを数えます。失注や受注などの終わったステージを除いた「進行中」の商談が、最初の段階にばかり集まっていないかを見ます。

最初の段階に偏っている場合、案件の登録はされていても、その後の進み具合が記録されていない可能性があります。中間の段階(訪問、提案、見積など)の記録が厚くなってきたら、CRMが案件の進行管理に使われ始めたサインです。

定着率の効果測定で、読み違えやすい点は?

数字が出たら、次の点に気をつけて読みます。どれも、私たちが実際に診断を繰り返す中で気づいたことです。

集計期間がずれると、件数は比べられない

「直近30日」で毎回集計していても、前回と今回で期間がずれていれば、片方にだけ忙しい時期が含まれることがあります。そのため、前回との件数の差は、運用の変化なのか期間のずれなのか区別できません。前回と比べるときは、件数より比率(全体に占める割合)を主に読みます。 1人のユーザーへの集中度、担当者と更新者のずれの割合、管理者操作の割合などです。

「入力が増えた=良くなった」とは限らない

更新件数が増えたとき、現場の入力が増えたのか、そもそも問い合わせの量が増えたのかを切り分ける必要があります。逆に、管理者の代行操作が減ったときも、代行が減ったのか、代行の対象になる問い合わせが減ったのかで意味が変わります。この切り分けには、最終更新日時だけでなく、作成日時と作成者を基準にした集計を別に行うと役立ちます。

一度の改善で「定着した」と判断しない

ある回で良い数字が出ても、次の回で同じ傾向が続いているかを確かめてから「定着した」と判断します。期間のずれや、たまたま忙しくなかった週の影響を受けている可能性があるからです。

何回も変わらない項目は、促す段階を終える

入力率がほぼゼロの項目が、何回診断しても変わらない場合、「入力してください」と促し続けても効果は期待できません。その場合は、(a) ステージを進めるときに入力を必須にする、(b) 項目自体を入力画面から外す、のどちらかを決める段階です。判断を先送りするほど、その項目を使った集計やダッシュボードは信頼されなくなります。必須にする場合も、入力最小主義の考え方で、本当に必要な項目かを先に見直してください。

未稼働の理由は、ログだけでは分からない

更新履歴で分かるのは「動いていない」という事実までです。ログインしていないのか、ログインはしているが入力していないのか、他の人に任せているのかは、ログインの記録を確かめ、本人に話を聞いて初めて分かります。診断結果は、責めるための材料ではなく、話を聞く相手と順番を決めるための材料として使ってください。

定点観測の続け方

診断は1回で終わりではなく、同じ条件で繰り返して変化を見るものです。続けるためのポイントは3つです。

  1. 条件を固定する:期間の長さ、対象モジュール、除外するユーザーと一括処理の基準を、毎回同じにします。条件を変えたときは、レポートにその旨を残します。
  2. 間隔を決める:導入や立て直しの直後は1〜2週間おき、安定したら月1回が目安です。定例会議の直前に回すと、そのまま議題にできます。
  3. 前回の指摘を追う:前回「未稼働」と指摘したユーザーが動き出したか、前回ゼロだった項目が埋まり始めたかを、毎回確かめます。指摘が改善されないまま続いている場合は、打ち手そのものを変える合図です。

診断の結果を顧客ごとの点数にして見る方法は、ヘルススコア(顧客健全度)の設計例で扱っています。

チェックリスト:診断の前に確認すること

  • 使っているCRMで、更新者と担当者を含めて書き出せる(APIか一覧の書き出し)ことを確かめた
  • 対象のモジュールと期間(まずは商談・直近30日)を決めた
  • 取り出した件数が、CRMの画面で絞り込んだ件数と合っている
  • 一括処理(同じ秒に大量に更新されたもの)を除いた
  • 管理者・代行担当・外部連携のアカウントのうち、除くものを決めて記録した
  • ユーザー別に、件数と稼働日数を並べた
  • 担当者と更新者のずれを、表で確かめた
  • ユーザー一覧と突き合わせ、一度も更新していない人を手作業でも検算した
  • 項目別の入力率を、担当者・入力画面ごとに分けて出した
  • 前回と比べるときは、件数より比率を主に読んだ
  • 件数の増減を、問い合わせ量の増減と切り分けた

まとめ

CRMが定着しているかどうかは、感覚やアンケートより、更新履歴という操作の跡で確かめるほうが確実です。直近30日の更新を取り出し、一括処理と管理者・連携用アカウントの操作を除いたうえで、ユーザー別の件数と稼働日数、担当者と更新者のずれ、一度も触っていないユーザー、項目ごとの入力率、ステージの偏りを見ます。

そして、1回の結果で判断せず、同じ条件で繰り返して比率の変化を読むこと。数字が良くなったときほど、期間のずれや問い合わせ量の変化を疑うこと。診断の結果は、現場を責める材料ではなく、話を聞く相手と、直すべき仕組みを見つけるための材料です。

自社のCRMで同じ診断をしてみたいが、取り出しや集計に手が回らない場合は、受注プロセスの無料診断でご相談ください。現在のCRMの使われ方を更新履歴から確かめ、立て直しの優先順位を整理します。

診断を定例の運用にするところまでの支援は、受注プロセス管理で行っています。

よくある質問

ログイン回数を見れば、CRMが使われているか分かりませんか?

多くのCRMでは、ログインは「開いた」ことを示す記録で、画面を開いて一覧を眺めるだけでも残ります。定着しているかどうかは、案件のステージを進めた、活動を記録した、といった更新が日々起きているかで判断するほうが確実です。ただし、ログインの記録は「未稼働のユーザーが、そもそもログインしていないのか、ログインはしているが入力していないのか」を切り分けるときに役立ちます。

更新件数が多いユーザーほど、CRMを使いこなしていると考えてよいですか?

件数だけでは判断できません。一度に大量の案件をまとめて閉じた日があれば、件数は大きくなります。毎日少しずつ更新している人のほうが、業務の中でCRMを使っている可能性が高いと言えます。件数と並べて「何日操作したか」を見てください。また、件数の多い人が他の人の案件を代わりに更新していないかも、担当者と更新者のずれで確かめます。

診断はどのくらいの頻度で行えばよいですか?

導入や立て直しの直後は1〜2週間おき、運用が安定してきたら月1回が目安です。大切なのは、毎回同じ条件(期間の長さ、除外するユーザー、対象のモジュール)で集計することです。条件が変わると、前回との差が運用の変化なのか集計の変化なのか分からなくなります。

API(外部からデータを取り出す仕組み)が使えなくても診断できますか?

多くの場合できます。多くのCRMには、最終更新日時・更新者・担当者などの項目を含めて一覧を書き出す機能があります。ただし、更新者や担当者の列を書き出せないCRMでは、この診断はできません。最初にそこを確かめてください。直近30日に更新されたレコードを絞り込んで書き出し、表計算ソフトで集計すれば、この記事の指標の大半は出せます。定点観測を続けるなら、同じ条件で毎回取り出せるよう手順を固定しておくと楽になります。

動いていないユーザーが見つかったら、どう対応すればいいですか?

まず本人に話を聞いてください。ログインしていないのか、ログインはしているが入力する場面がないのか、他の人が代わりに入力しているのかで、打ち手が変わります。入力しないことを責める前に、業務の流れの中に入力する場面があるかを確かめるのが先です。罰則で入力を求めても定着しにくいことは、CRMが定着しない原因の記事でも触れています。

宮村佳祐

この記事の著者: 宮村 佳祐(株式会社etika 代表取締役)BtoBメディアとMAツール「リストファインダー」の立ち上げ・事業拡大を経て、ニッチな強みを持つBtoB中小企業の売れる仕組みづくりを支援。プロフィール詳細 →