ヘルススコア(顧客健全度スコア)とは、既存顧客がこの先も契約を続けてくれそうかどうかを、CRMにすでにあるデータから0〜100点で数値化したものです。カスタマーサクセスの分野で使われる考え方で、この記事では「顧客健全度スコア」と呼びます。担当者の「最近あのお客様、静かだな」という感覚を、全員が同じ基準で見られる数字に置き換えるのが目的です。

この記事では、私たちが起業支援メディア運営企業に向けて設計した健全度スコアを、設計例として公開します。配点・閾値・更新の仕組みまで載せていますが、顧客データそのものは載せていません。また、これは提案段階の設計であり、運用後の成果を示すものではありません。自社に当てはめる際の「設計の考え方」としてお読みください。

なぜ解約リスクを「数字」で見る必要があるのですか?

解約は、多くの場合、申し出があるまで見えないからです。新規の商談であれば、ステージや完了予定日で進み具合を追えます。一方、契約中の顧客は「問題が起きていない」ように見える期間が長く、気づいたときには更新しない意思が固まっていることがあります。

担当者が一人ひとりの顧客を覚えていられるうちは、感覚でも回ります。しかし担当件数が増えたり、担当者が替わったりすると、「最後に連絡したのがいつか」「サービスがどれだけ使われているか」を誰も把握していない顧客が出てきます。健全度スコアは、この「誰も見ていない顧客」を毎週機械的に洗い出すための仕組みです。

もう一つの理由は、優先順位です。全顧客に同じ頻度で連絡するのは現実的ではありません。点数があれば、「今週は赤の顧客から順に連絡する」という判断ができます。

ヘルススコアの指標は、何を材料にすればいいですか?

材料は「すでにCRMに入っているデータ」に限るのが原則です。スコアのために新しい入力をお願いすると、入力されない項目が出て、スコア自体が信用されなくなります。入力を増やさない設計の考え方は、入力最小主義のCRM項目設計でも詳しく書いています。

今回の支援先では、CRMのデータを調べた結果、次の3つの観点がすでに揃っていました。

  1. 利用の進み具合:購入した利用枠のうち、どれだけ使われているか(残数の割合を計算する項目が既にあった)
  2. 直近の接触:最後に何らかの活動(電話・メール・面談など)があったのはいつか
  3. メールの疎通:担当者のメールアドレスに不達が起きていないか、配信停止になっていないか

この3つは、それぞれ解約の予兆の別の側面を表しています。「使われていない」「話していない」「連絡が届かない」のどれか一つでも当てはまれば、注意が必要です。

配点はどう決めればいいですか?(100点満点の設計例)

設計例では、3つの観点を次のように配点しました。

観点判定に使うデータ配点
利用の進み具合購入した枠の残数の割合40点
直近の接触最終活動日からの経過日数35点
メールの不達担当者メールの不達の有無15点
配信停止担当者メールの配信停止の有無10点
合計100点

それぞれの点の付け方は、段階で区切ります。

利用の進み具合(40点):残数の割合が低いほど、よく使われていると判断します。

残数の割合点数
0〜20%40点
21〜40%30点
41〜60%20点
61〜80%10点
81〜100%0点

直近の接触(35点):最終活動日から30日以内なら35点、60日以内なら20点、90日以内なら8点、それより前なら0点です。

メールの疎通(25点):不達がなければ15点、配信停止になっていなければ10点です。どちらも「あり」なら0点です。

この設計では、利用枠のあるサービスでは「買った枠が使われないまま期限が来る」ことが更新を見送る理由になりやすいと考え、利用の進み具合に最も大きい配点を置きました(仮説)。逆に、メールの疎通は点数を小さくしました。不達は「担当者が退職した」「連絡先が変わった」というサインにはなりますが、それだけで解約に直結するとは限らないと考えたためです。どちらも過去の解約データで確かめた配点ではないため、運用前の検証が必要です。

配点は、自社の契約形態に合わせて組み替えてください。月額制のサービスなら利用回数やログイン状況、保守契約なら問い合わせの頻度が「利用の進み具合」の代わりになります。

緑・黄・赤の閾値はどう決めますか?

設計例では、合計点を3段階に分けました。

ラベル点数意味と動き方
緑(健全)80〜100点現状維持。通常のフォローを続ける
黄(要注意)60〜79点担当者が近いうちにフォローを入れる
赤(要介入)0〜59点早めに担当者が連絡し、原因を確かめる

閾値を決めるときに気をつけたいのは、「赤が多すぎないこと」です。赤が全体の半分を超えるような閾値では、担当者は通知を見なくなります。運用を始める前に、現在の顧客にスコアを当てはめて、各ラベルに何件入るかを確かめてください。そのうえで、赤が「今週中に連絡できる件数」に収まるよう調整します。

可能であれば、過去に解約した顧客にもスコアを当てはめてみてください。解約の数か月前に黄や赤になっていれば、スコアは予兆を拾えていると判断できます。緑のまま解約していた顧客が多い場合は、指標か配点を見直すサインです。

スコアの対象は、どの顧客に絞るべきですか?

契約が続いている顧客だけに絞ります。設計例では、契約が続いている案件だけを母数にしました。契約が終わった案件や失注した案件は計算の対象外です。

終了した案件まで含めると、「使われていない」「接触がない」のは当然なので、赤のラベルが大量に付きます。すると、本当に手を打つべき契約中の顧客が埋もれてしまいます。スコアは「いま手を打てば継続につながる顧客」を見つけるためのものなので、母数の絞り込みは配点と同じくらい重要です。

毎週の自動更新と通知はどう組みますか?

設計例の運用は次の流れです。

  1. 毎週月曜の朝に、契約中の案件を全件取り出す
  2. 各案件について、3つの観点の点数を計算する(メールの疎通は、案件に紐づく担当者の連絡先から確認する)
  3. 今回の合計点と、それに応じたラベルを書き込む。その前に、前回のスコアを別の項目に退避しておく
  4. 赤になった案件の担当者にだけメールで通知する

計算結果を入れておくために、案件に次の4項目を追加します。

追加する項目中身
健全度スコア0〜100の数値
リスクラベル緑・黄・赤の選択肢
前回スコア先週のスコア(比較用)
最終計算日時いつ計算したか

前回スコアを残すのは、「点数が大きく下がった顧客」を見つけるためです。黄のままでも、先週85点だった顧客が65点に落ちていれば、何かが起きています。ラベルだけでなく変化量も見られるようにしておくと、予兆に早く気づけます。

最終計算日時は地味ですが欠かせません。自動処理が止まっていても、スコアの数字だけを見ると気づけないからです。日付が先週のままなら処理が失敗している、と誰でも判断できます。

そもそもCRMが入力されているかを確かめる方法は、CRM・SFAの定着率を更新履歴で測る方法にまとめています。

実装で気をつけることは?(チェックリスト)

設計の段階で私たちが確認した点を、チェックリストにまとめます。

  • スコアの材料になる値が、本当に全件に入っているか(空欄が多い項目は材料にしない)
  • 「最終活動日」が、電話・メール・面談など顧客との接触で更新される値か。レコードの編集だけで更新される日付だと、スコアを書き込む処理そのもので日付が動いてしまわないか確かめる
  • 計算式で作られた項目(例:残数の割合)は読み取って使うだけにし、書き込もうとしていないか
  • 案件に担当者の連絡先が複数紐づく場合、どの連絡先の疎通を見るか決めたか
  • 対象件数が多い場合に、1回の処理で全件を計算しきれるか。足りなければ件数を区切って複数回に分ける
  • 通知の宛先(担当者本人か、マネージャーも含めるか)を決めたか
  • スコアが赤になったときの「最初の一手」を、指標ごとに決めたか

最後の項目が抜けると、通知が届いても誰も動きません。利用が進んでいなければ活用方法の相談、接触が途切れていれば近況の確認、メールが届いていなければ連絡先の更新、というように、落ちた指標と打ち手を対応させておきます。

重要顧客には、もう一段深い見方を重ねられますか?

できます。同じ支援先には、健全度スコアと並べて、最重要ランクの取引先だけを対象にした2軸の評価も提案しました。1つは「営業がどれだけ動いているか」、もう1つは「顧客がどれだけ反応しているか」です。

営業活動スコア(100点):最近の活動日(40点)、直近90日の電話の有無(20点)、商談・予定の有無(25点)、メールの有無(15点)。

顧客反応スコア(100点):メールが届いているか(30点)、直近3か月の開封(40点)、直近3か月のクリック(30点)。

それぞれ70点を境に高低を分けると、取引先は4つの象限に分かれます。

象限状態打ち手
A営業も動き、顧客も反応している現状維持。うまくいっている進め方を他の顧客にも広げる
B営業は動いているが、顧客の反応が薄い連絡の内容やメールの中身を見直す
Cどちらも低い担当の割り当てや体制を見直す
D顧客は反応しているのに、営業が手薄機会を逃しやすい。マネージャーへすぐ知らせる

この見方で最も価値があるのはDの象限です。顧客がメールを開き、リンクを押しているのに、営業からの連絡が止まっている。担当者の交代や繁忙期で起きやすい「気づかないフォロー漏れ」が、ここに表れます。2軸の評価は月1回の更新で十分です。

健全度スコアが「契約が続くか」を見る仕組みだとすれば、2軸の評価は「営業の手が届いているか」を見る仕組みです。両方を同じダッシュボードに並べると、守るべき顧客と、攻めるべき顧客が一枚で見えるようになります。

どこから始めればいいですか?

いきなり2軸の評価まで作る必要はありません。おすすめの順番は次のとおりです。

  1. 材料の棚卸し:解約の予兆になりそうなデータが、CRMのどこに・どれだけ入っているかを確かめる
  2. 健全度スコアの試算:設計例の配点をたたき台に、現在の顧客と過去の解約顧客で試算する
  3. 閾値の調整:赤の件数が、毎週フォローできる量に収まるよう調整する
  4. 週次の自動更新と通知:赤だけ通知する運用を始める
  5. 2軸評価の追加:運用が回ってから、重要顧客向けに重ねる

スコアは、毎週見られて初めて意味を持ちます。数字を作っても会議で開かれなければ、入力されないCRMと同じ道をたどります。週次で見る場をどう作るかは、CRMが定着しない7つの原因と立て直し方の「週次レビュー」の節が参考になります。

まとめ

顧客健全度スコアは、新しいツールや新しい入力を必要としません。CRMにすでにある「利用の進み具合」「直近の接触」「メールの疎通」を組み合わせ、100点満点で合算し、緑・黄・赤で示すだけです。大切なのは、母数を契約中の顧客に絞ること、赤だけを通知すること、前回スコアを残して変化を見ること、そして赤になったときの最初の一手を決めておくことです。

自社のCRMに、スコアの材料になるデータがどれだけ揃っているかは、外から見ただけでは分かりません。現在のCRM設定とデータの入り方を拝見し、健全度スコアを作れるかどうか、何から手を付けるかを整理します。受注プロセスの無料診断から、現在の顧客管理の状況をお知らせください。

スコアを週次の顧客レビューに組み込む運用の支援は、受注プロセス管理で行っています。

よくある質問

ヘルススコアを作るのに、新しい入力項目は必要ですか?

スコアの材料には、原則として既存のデータだけを使います。今回の設計例では、契約の消化率、最終活動日、メールの不達フラグ、配信停止フラグという、すでにCRMに入っている値を組み合わせました。追加するのは、計算結果を入れておく項目(スコア・ラベル・前回スコア・計算日時)の4つだけです。担当者が新たに入力する項目は増やしません。

配点はこの設計例のまま使えますか?

そのままではなく、自社の契約形態に合わせて指標を差し替えてください。今回の40・35・25という配分は、購入した利用枠を期間内に使っていく契約を前提にした設計例です。月額制のサービスなら利用回数やログイン、保守契約なら問い合わせの頻度など、自社で「使われているかどうか」を表す値に置き換えます。そのうえで、過去に解約した顧客にスコアを当てはめ、解約前に赤や黄になっていたかを確かめてから運用を始めるのが安全です。

スコアは毎日更新したほうがよいですか?

設計例では週1回にしました。直近の接触は30日・60日・90日の区切りで点数が変わるため、日ごとに計算し直しても点数はほとんど動かないと考えたためです(当社の仮説)。毎日更新すると通知が増えて、担当者が見なくなるおそれもあります。設計例では毎週月曜の朝に全件を再計算し、赤になった顧客の担当者にだけ通知する形にしました。週の初めに確認し、その週のフォロー予定に組み込める時間帯を選ぶのがポイントです。

スコアが赤になったら、担当者は何をすればいいですか?

まず、どの指標で点を落としたかを見ます。利用が進んでいないなら活用の相談、接触が途切れているなら近況の確認、メールが届いていないなら連絡先の更新、というように、落ちた指標によって最初の一手が変わります。スコアの内訳を画面で見られるようにしておくと、担当者が「何をすればいいか」で迷いません。

CRMの標準機能だけで実装できますか?

定期実行の仕組みと、計算結果を書き込める項目があれば実装できます。多くのCRMには、決まった時刻に処理を動かす機能や、外部の自動化ツールと連携する口があります。ただし、対象件数が多いと1回の処理で全件を計算しきれないことがあります。その場合は件数を区切って複数回に分けて実行する設計にします。

宮村佳祐

この記事の著者: 宮村 佳祐(株式会社etika 代表取締役)BtoBメディアとMAツール「リストファインダー」の立ち上げ・事業拡大を経て、ニッチな強みを持つBtoB中小企業の売れる仕組みづくりを支援。プロフィール詳細 →