金属部品の表面処理を請け負う加工メーカー様(社員数十名)で、導入済みのまま使われていなかったCRMを立て直した事例です。お客様のご意向により、社名は伏せてご紹介します。
この記事でお伝えするのは、受注がどれだけ増えたかではありません。CRMの運用の決まりごとを、どう作り、どう直していったかの記録です。お渡しした運用手順書の一部も、見本として掲載します。

ご支援前の状態:CRMはあるが、使われていない
ご支援を始めたときの状態は、次のとおりでした。
- CRMは導入済みだが、入力の手間が大きく、利用が定着していない
- 案件の進み具合は、ホワイトボードと口頭のやり取りで管理している
- 営業の活動履歴がCRMに残らない
- 「見込み客」と「商談」を分ける基準がない
- Webからの問い合わせの7〜8割が営業メールやいたずらで、選別に手間を取られている
- 入力しても成果が見えないので、入力する気持ちが起きにくい
営業は課長と担当者の数名で、問い合わせへの対応はシステム担当の方が兼務されていました。ツールが足りないのではなく、誰が・いつ・何を入力し、どこで次の人に渡すのかが決まっていないことが、使われない原因でした。
進め方:決まりごとを1冊の手順書にまとめ、現場の声で直す
最初から完成した手順書を作ることはしていません。短い版をまず現場で使っていただき、定例の場で出た声をもとに直していく進め方をとりました。

| 時期 | 手順書の状態 | 直したきっかけ |
|---|---|---|
| 2か月目 | 最初の版。問い合わせを受けて判定し、会社情報を入れるところまで | まず入口の選別を軽くしたい |
| 3か月目 | 範囲を受注・失注まで広げる。見込み客のステータスと商談のステージを定義 | 画面が分かりにくい、ステータスが細かすぎる |
| 4か月目 | 商談のステージを整理し、必須入力を5項目に絞る。週次ミーティングの進め方を手順書に入れる | 金額や仕様は、決まらないまま進む案件が多い |
| 6か月目 | 「試作中」のステージを追加。止まった商談の扱いを決める。目次と、新しい利用者を招く手順を入れる | 2か月以上動いていない商談がたまっている |
| 8か月目 | あとから作った個別の手順書(実績データの取り込み、問い合わせフォームのスパム対策)へのリンクを1か所に集約 | 手順書が増えても、見る場所を1つにしたい |
改訂の回数は、半年あまりで40回を超えました。最初の版は80行ほどでしたが、最新の版は目次つきで700行を超えています。量を増やすことが目的ではなく、現場で迷った箇所を一つずつ書き足し、使わなくなった決まりは消していった結果です。
手順書に書いたこと:6つの決まりごと
1. 問い合わせは、最初に4つに分ける
届いた問い合わせは、判定の担当者が最初に次の4つに分けます。
| 判定 | その後の扱い |
|---|---|
| 新規の営業対象 | 会社情報を調べて入力し、営業へ渡す |
| 既存のお客様からの営業対象 | 会社情報の入力は省き、すぐ営業へ渡す |
| 将来のマーケティング対象 | 営業は追わず、情報提供の対象として残す |
| 無効(営業メール・いたずら等) | 対応しない |
最初は「有効か無効か」の2つでした。運用するうちに、すぐ追わない相手を分ける区分と、既存のお客様を分ける区分が必要だと分かり、4つになりました。既存のお客様を分けたのは、「新しく入った営業担当には、既存のお客様かどうかが分からない」という声があったためです。
支援の初期には、過去1年分の数百件の問い合わせをこの基準で判定し直しました。有効と判定できたのは、およそ3分の1でした。
2. 見込み客と商談の境目は、お客様の「明確な依頼」
お客様から「見積を出してほしい」「サンプルを送ってほしい」とはっきり依頼があった時点で、見込み客を商談に変えます。「興味がありそうだ」という営業側の感触では、商談にしません。
境目を人の感覚に任せると、担当者によって商談の数が変わり、数字を並べて見ることができなくなるためです。
3. ステージの名前は、主語を自社にそろえる
商談のステージは、次の7つです。お渡しした手順書の該当箇所を、見本として掲載します(固有の名称は一般的な言い方に置き換えています)。
| ステージ | 説明 | 確度 |
|---|---|---|
| 見積対応中 | サンプル対応、見積の作成と提出など、見積に関する対応を進めている段階 | 60% |
| 見積回答待ち | 見積を提出済みで、お客様からの回答を待っている段階 | 60% |
| 試作中 | お客様が試作段階での検討を続けており、受注に向けて進んでいるが決まっていない段階 | 70% |
| 受注(1か月) | 受注が決まったときに担当者が設定する。1か月後に自動で「完了」へ移る | 100% |
| 完了 | 案件が終わった段階 | 100% |
| 再アプローチ | 商談の作成から2か月たつと自動で移る。担当者が見直し、もう一度働きかけるか失注にするかを決める | 10% |
| 失注 | 成約に至らなかった段階。担当者が設定する | 0% |
「検討中」のように、主語がお客様なのか自社なのか分からない名前は、途中で改めました。「いまボールがどちらにあるのかが分かるようにしたい」というご担当者の声によるものです。「見積回答待ち」であれば、自社は出し終えていて、お客様の番だと分かります。
確度は、見込みの金額を見積もるために使います。見積金額が100万円で確度が60%なら、売上の期待値は60万円です。
4. 必須入力は5項目だけ
商談で必ず入力する項目は、商談名・取引先名・製品カテゴリー・ステージ・完了予定日の5つに絞りました。金額、サイズ、仕様、色は「分かった段階で入力」としています。
当初は金額なども必須にしていました。しかし、開発に1〜2年かかる案件では金額がなかなか決まらず、仕様もお客様のご希望で後から変わります。決まっていない項目を必須にすると、入力そのものが止まります。必須を減らしたのは、入力を続けてもらうためです。
5. 止まった商談は、自動で失注にしない
商談を作ってから2か月たつと、自動で「再アプローチ」のステージに移り、担当者と責任者に通知が届きます。失注にするかどうかは、人が判断します。
最初の案では、一定期間たった商談を自動で失注にする設計でした。しかし、試作が長く続く案件は珍しくなく、機械的に失注にすると実態と合いません。そこで、自動で行うのは「見直しのきっかけを出す」ところまでにしました。
見込み客の側も同じ考え方で、回答待ちのまま3か月たったものは、自動で保留の箱へ移ります。画面には、いま追うべきものだけが残ります。
6. 記録はメモ欄1か所に、書くのは3点
電話や訪問の記録は、CRMにある複数の記録用の画面を使い分けず、各レコードのメモ欄に時系列で書くことにしました。最低限書くのは、問い合わせの概要、お客様のご希望、次のアクションの3点です。
入力の場所が複数あると、どこに書くかで迷い、書かれなくなります。場所を1つに決めることを優先しました。
週次ミーティング:最初の5分で、その場でCRMを直す
手順書には、週次ミーティングの進め方も入れています。会議は4つの部分で進めます。
- データの確認:止まっているものがないかを確かめ、その場でCRMを直す
- 担当者ごとの案件:担当者別のボードと受注見込みを見て、先週の実績と今週の予定を共有する
- 受注・失注の振り返り:直近30日分を見る
- 総括:営業の責任者と社長から
1つ目の「データの確認」で見る内容は、次のとおりです(手順書の該当箇所の見本)。
| 区分 | 確認する内容 |
|---|---|
| 見込み客 | 有効・無効の判定が止まっていないか |
| 見込み客 | 会社情報が未入力のものはないか |
| 見込み客 | 「未対応」のまま止まっていないか |
| 商談 | 受注・失注に至っていないのに、完了予定日が過ぎていないか |
予定日を過ぎた商談は、決着させるか、予定日を延ばすかをその場で決めて、CRMを更新します。「あとで直しておきます」をなくし、会議が終わったときにはデータが正しい状態になっているようにするためです。
定着のために工夫したこと
- 手順書から、作業する画面を直接開けるようにした。 一括で作業する画面へのリンクを手順書に埋め込んでいます。
- 通知メールに、何のための通知かを書き添えた。 「このメールの目的が分からない」という声を受けたものです。
- ステータスは、順番どおりでなくても選べるようにした。 順に進める方式は不便だ、というご要望によるものです。
- 社内会議の議事録に、チェック欄を1行足した。 「この引き合いはCRMに登録済みか」を会議のたびに確かめます。
- 過去の実績データは、別の画面に分けた。 過去の受注が大量に並ぶと、いまの商談が埋もれて見えなくなるためです。
いまの状況と、これから
ご支援を始めて半年ほどたった時点で、ご担当者から「今までのどのコンサルよりもスムーズに進んでいる」というお言葉をいただきました。現在は、定例の間隔を隔週から月1回に広げ、運用を続けながら見直しています。
運用が回り始めると、次の課題も見えてきました。Webからの問い合わせはCRMに入るようになった一方で、既存のお客様から営業担当へ直接届く引き合いを、どうCRMに載せるかです。1件ずつ入力する手間をかけずに済むよう、継続的なお取引のあるお客様は取引先の単位で管理する、といった整理を進めています。
手順書は、作って終わりにはなりません。運用が進むほど、次に決めることが出てきます。それを定例の場で拾い、1冊の手順書に戻し続けることが、当社の伴走の中身です。
同じ進め方でご支援しています
この事例の進め方は、当社の受注プロセス管理としてご提供しています。CRMをこれから導入する場合も、導入済みのCRMを立て直す場合も対象です。
まずは現在の営業の進め方と、お使いのツールの状況をお聞かせください。受注プロセスの無料診断で、どこから整えるかを一緒に整理します。
CRMが使われなくなる原因と立て直しの考え方は、CRMが定着しない7つの原因と立て直し方でも解説しています。入力項目の絞り方は入力最小主義のCRM項目設計、失注と保留の分け方は失注分析の始め方をあわせてご覧ください。
よくある質問
この事例で、受注件数や売上はどのくらい増えましたか?
本記事では、受注件数や売上の変化は扱っていません。お伝えしているのは、使われていなかったCRMの運用を、手順書と週次ミーティングでどう整えていったかという経過です。数字で示せる成果は、根拠となる計測がそろった段階で別途ご報告する方針です。
手順書は最初から完成形を作るのですか?
作りません。最初の版は、問い合わせの判定と会社情報の入力までを扱う短いものでした。現場で使ってもらい、定例の場で出た声をもとに直していきます。本事例では半年で40回以上改訂しています。
CRMは何を使っていますか? 他のCRMでも同じ進め方はできますか?
本事例ではZoho CRMを使っています。ただし、見込み客と商談の境目を決める、必須項目を絞る、止まった案件の扱いを決める、週次で見直す、という進め方はCRMの種類を問いません。
営業の人数が少なくても意味がありますか?
あります。本事例も、営業は数名で、問い合わせ対応はシステム担当者が兼務している体制です。人数が少ないほど、誰がどこまでやるかの決まりごとを1冊にまとめておく効果が大きくなります。
週次ミーティングでは何を見ますか?
最初に、判定が止まっている問い合わせや、予定日を過ぎた商談がないかを確かめ、あればその場でCRMを直します。そのあと担当者ごとの案件、直近の受注・失注の振り返り、責任者の総括の順で進めます。
