メルマガ作成をAIに任せる範囲とは、文面づくりから送信までのうち、どこまでをAIと自動処理に渡し、どこから人が引き受けるかの線引きです。当社(株式会社etika)は、セミナー案内などのメルマガを、AIエージェントとAPIを使って作っています。その線は「下書きまでがAI、送信は人」です。この記事では、その線を引いた理由を、2026年8月に当社で起きた誤配信の実例とあわせてお伝えします。

当社のメルマガ作成で、AIは何をしているのですか?

当社のメール配信はZoho Campaignsを使っています。AIエージェントに頼んでいるのは、次の作業です。

  1. セミナーの企画書や告知記事を読み、読者層ごとの本文を書く
  2. 件名案を複数出す
  3. 本文をHTMLにして、配信ツールが読み込める場所に一時的に置く
  4. APIで「下書きキャンペーン」を作る

ここまでで、配信ツールの画面に下書きが並びます。人はその画面で宛先を付け替え、テスト送信で表示を確かめ、送信ボタンを押します。

当社は見込み客を、すでにマーケティングに予算を割いている層(SA)と、これから取り組む層(B以下)に分けています。2026年8月時点で、親リストは約2,100件、SAは約540件、B以下は約1,580件でした。同じセミナーでも、層ごとに訴求を変えた2通を書きます。この分け方はリードスコアリングを点数でなくS/A/B/Cの4段階で運用した記事で詳しく書いています。

何が起きたのですか?2通が同じ全員に届いた

2026年8月25日と27日の配信で、SA向けとB以下向けの2通が、どちらも親リストの全員に届きました。同じ人の受信箱に、同じ日に、少しずつ違う2通の案内が並んだことになります。

当社の配信記録(Zoho Campaignsの集計値)を並べると、違いがはっきり出ています。

配信日宛先の絞り方送信数(SA版/B版)解除(SA版/B版)解除率(SA版/B版)
8月20日配信画面でセグメントを指定540/1,5841/5約0.2%/約0.3%
8月25日APIでセグメントを指定(効いていなかった)2,127/2,12613/8約0.6%/約0.4%
8月27日APIでセグメントを指定(効いていなかった)2,101/2,10813/8約0.6%/約0.4%
9月2日申込済みを除くための専用リスト519/1,5730/70%/約0.4%

宛先が混ざった2回は、SA版の解除がどちらも13件で、送信数に対する解除率は約0.6%でした。正しく絞れた回のSA版は約0.2%(8月20日)と0%(9月2日)です。送った件数そのものが約4倍に増えているので、件数だけで比べると差が大きく見えます。そこで率で比べても、SA版は高く出ました。一方、B版の解除率は0.3〜0.4%台で、目立った差はありません。SA版の読者にとっては、同じ日に似た案内が2通届いたことが解除を押す理由になったと当社は見ていますが、因果までは確かめていません。

なぜ絞り込みが効かなかったのですか?

当社の環境では、APIで下書きを作るときにセグメント(リストの中の絞り込み条件)を指定しても、下書きには反映されていませんでした。APIはエラーを返さず、下書きは問題なく作られます。ところが中身を見ると、セグメントの欄は空で、宛先の件数は親リストの全件(2,122件)のままでした。

この点は、配信の振り返りをしていた9月15日に、同じ手順で下書きを作り直して確かめました。当社が試した渡し方(いずれもリストの指定と組み合わせた形)では、結果は同じでした。Zoho側の不具合とまでは言えません。ただ、少なくとも当社の環境では「APIに渡した指定が効いたかどうか」は、APIの応答だけでは分かりませんでした。

8月20日の回は、人が配信画面でセグメントを付けていたので、正しく絞れていました。人が画面で付けた回は正しく、APIに任せた回だけが崩れた。この差が、線を引く直接のきっかけになりました。

なぜ「送信」だけをAIから外したのですか?

理由は2つあります。

1つ目は、宛先の誤りは送信した瞬間に確定し、取り消せないことです。本文の誤字は次の配信で直せます。宛先の誤りは、受け取った人の受信箱に残り、解除という形で返ってきます。

2つ目は、権限の設定では送信だけを止められないことです。Zoho Campaignsでは、送信の操作も下書きの更新と同じ権限(ZohoCampaigns.campaign.UPDATE)の範囲に入っています(Zoho Campaigns公式:Send campaign)。下書きを直せる権限を渡すと、送信もできる状態になります。

そこで当社は、送信を呼ぶ処理をコードに書かないことにしました。AIエージェントが使う手順書にも「送信しない」と明記しています。権限で止められないものは、作らないことで止める。そのうえで、送信は人が配信画面から行います。下書きをAIに任せる全体の設計は、AIマーケティングハーネスの記事にまとめています。

AIはメールの誤送信を防止できますか?

半分はできます。決まった点検、たとえば「宛先の件数が想定と合っているか」「差し込み記号が残っていないか」「リンク先が開くか」は、AIに確かめさせると漏れが減ります。

ただし、今回のように、APIが受け付けた指定が実際には効いていない場合、AIもAPIの応答を信じてしまいます。AIが読める情報と、配信画面に出ている事実がずれることがあるのです。だから最後の確認は、配信画面の表示を人が見る形にしています。

送信前に人が確かめる3点

当社では、送信前に次の3点を画面で確かめます。

  1. 宛先の件数:キャンペーンごとの宛先件数を見て、想定(SAなら約540件など)と合うかを確かめる。2通を同じ日に出すときは、2通の合計が親リストを超えていないかも見る
  2. 差し込みのテスト送信:宛名の差し込み(姓が無い人は「ご担当者様」になる設定)と、配信停止リンクが入っているかを、テスト送信で確かめる
  3. プレビューと補足の表示:APIで作った下書きには、受信箱で件名の横に出る短い説明文(プリヘッダー)が入らなかった。画面で入れ、プレビューで見え方を確かめる

9月2日の回は、APIの問題に気づく前でしたが、申込済みの人を除くために配信ごとの専用リストを宛先にしていました。その結果、宛先は想定どおりに絞れていました(解除はSA版0件、B版7件)。APIの指定が効いていないと確かめたのは9月15日で、それ以降、宛先の絞り込みは次のどちらかで行っています。

  • 配信画面で、人がセグメントを付ける
  • 配信ごとに専用リストを作る(申込済みの人を除いた名簿などを用意し、それを宛先にする)

AIに任せてよい作業・任せない作業

当社の線引きを表にすると、次のとおりです。

作業担当理由
元ネタ(企画書・告知記事)から本文を書くAI層ごとの書き分けが速い。人が読み直して直す
件名案を出すAI案を並べてもらい、人が選ぶ
本文のHTML化と一時的な置き場の用意AI手作業だと崩れやすい
配信ツールに下書きを作るAI(API)下書きなので、誤りがあっても外に出ない
宛先の確定(セグメント・専用リスト)人APIの指定が効かないことがあった
テスト送信とプレビュー確認人受信者が見る形で確かめる
送信人取り消せない操作のため
配信後の集計の取得と振り返りAI数字の取得と比較は任せ、判断は人

ほかにもあった「止まり方」

誤配信のほかにも、APIで下書きを作る中で、気づきにくい止まり方がいくつかありました。どれも、人が画面を見れば気づけるものです。

  • 下書き作成の応答が、通常の形式ではなく画面の断片のような形で返ってきたときは、本文が空の下書きができていました。本文の置き場が正しく中身を返していなかったのが原因です。慌ててやり直すと、同じ名前の下書きが重複してできるだけでした
  • 本文は直接送れず、公開URLから配信ツールが取り込む方式です。置き場に使っていたサービスがアカウントの上限件数に達し、別の置き場に切り替えました
  • 下書きを消す・直すAPIは見当たりませんでした。直すときは作り直し、古い下書きは人が画面で消しています

APIまわりの詳しい手順は、CRMサポートセンターのZoho Campaigns APIで下書きキャンペーンを作る記事に分けて書いています。

これから始めるなら、何から任せればいいですか?

最初に任せるとよいのは、過去の配信の振り返りです。当社では、2026年7〜9月のセミナー関連の10通について、AIに配信ツールのAPIから送信数・開封率・クリック・解除を取らせ、文面と並べて読ませました。宛先が混ざっていたことに気づいたのも、この振り返りの表を作ったときです。数字を取って並べる作業は、外に何も送らないので、間違えても困りません。

次に、下書き作りを任せます。最初の数回は、AIが作った下書きと、人が普段書く文面を並べて読み、言い回しや長さの癖を直す指示を手順書に足していきます。送信前の点検は、最初から人の仕事として決めておきます。

順番を逆にして、いきなり送信まで自動にすると、今回のような宛先の誤りに気づく機会がありません。「外に出ない作業から任せる」が、当社の進め方です。

導入する前のチェックリスト

自社のメール配信にAIを入れるときは、次の点を先に決めておくことをおすすめします。

  • AIに任せる範囲を「下書きまで」と決め、手順書に書いたか
  • 送信の権限を切り離せるかを、公式ドキュメントで確かめたか。切り離せないなら、送信の処理を作らないと決めたか
  • 宛先の絞り込みを、APIに頼らず画面か専用リストで行う手順にしたか
  • 送信前の点検(宛先件数・テスト送信・プレビュー)を、誰がやるか決めたか
  • 同じ日に複数通を出すとき、宛先が重ならないことを確かめる手順があるか
  • 配信ごとに、送信数・開封・クリック・解除を記録しているか

自動化は、速さを手に入れる代わりに、間違いも速く広がります。どこで人が止めるかを先に決めておけば、AIに任せる範囲は安心して広げられます。AIが作ったものを人が確かめる仕組みについては、ヒューマンインザループの実例の記事もあわせてご覧ください。配信の下書きを含むマーケ運用を、AIと当社の伴走で回す形はマーケ担当AIエージェントのページで紹介しています。

よくある質問

メルマガ作成はAIにどこまで任せてよいですか?

元ネタからの文面づくり、件名案、配信ツールへの下書き登録までは任せてよいと考えています。宛先の確定と送信は、人が画面で確かめてから行うのが安全です。宛先の誤りは送信後に取り消せず、解除や信頼の低下として残るためです。

AIはメールの誤送信を防止できますか?

宛先の件数が想定と違う、差し込み記号が残っているなど、決まった点検をAIに手伝わせることはできます。ただし、当社の例のように、APIが受け付けた指定が実際には効いていないこともあります。最後に配信画面の表示を人が見る工程を残すのが確実です。

セグメント配信で同じ人に2通届くのを防ぐには?

送信前に、配信画面で各キャンペーンの宛先件数を見て、セグメントどうしの合計が親リストを超えていないかを確かめます。当社では、2026年9月2日の回に申込済みの人を除くための専用リストを宛先にしており、結果として想定どおりの件数に届きました。APIの指定が効かないと確かめた9月15日以降は、画面でセグメントを付けるか、専用リストで絞っています。

AIに配信ツールのAPIを触らせるとき、権限はどう絞ればいいですか?

まず、使う操作ごとに必要な権限を公式ドキュメントで確かめます。Zoho Campaignsでは、送信の操作も下書きの更新と同じ権限の範囲に入っているため、権限だけでは送信を止められません。その場合は、送信を呼ぶコードを書かないという約束で止め、人が画面から送ります。

宮村佳祐

この記事の著者: 宮村 佳祐(株式会社etika 代表取締役)BtoBメディアとMAツール「リストファインダー」の立ち上げ・事業拡大を経て、ニッチな強みを持つBtoB中小企業の売れる仕組みづくりを支援。プロフィール詳細 →