リードスコアリングとは、見込み客の属性や行動に点数を付けて、営業やマーケが優先して当たる相手を決める方法です。当社(株式会社etika)は点数を使わず、S/A/B/Cの4段階で見込み客を分けています。分けた結果、送るメールの文面が変わり、Sは個別に追う対象になりました。この記事では、4段階の決め方、判定の順番、AIに任せた部分と人が持った部分、そして配信で見つけた落とし穴を、当社のCRMの実例で説明します。受注が増えたかどうかは、まだ測っていません。その前提で読んでください。
なぜ点数ではなく4段階にしたのか
当社のCRM(Zoho CRM)には、見込み客が約3,200件、連絡先が約1,500件あります(2026年8月時点)。展示会や交流会の名刺、問い合わせフォーム、セミナーの申し込み、広告から入った人が混ざっています。
それまでは、ほぼ全員に同じメールを送っていました。広告やMAをすでに運用している会社の担当者にも、マーケの専任がいない会社の代表にも、同じ文面です。
点数式のリードスコアリングも考えました。ただ、点数にするには「資料請求は何点、役職は何点」という配点を決める必要があります。当社は、点数の細かな差より、現場がそのまま使い分けられる粒度を優先しました。そこで、点数ではなく「次に何をするか」で4つに分けることにしました。
| ランク | CRM上の値 | 次にすること | 基準 |
|---|---|---|---|
| S | S:個別優先 | 個別にメール・電話で追う | BtoB・規模が合う・マーケ施策の実施を確認・決裁権あり(または提案が進行中) |
| A | A:セグメント配信 | 関心に合わせた文面で配信 | BtoB・規模が合う・マーケ施策や決裁権は不明 |
| B | B:一斉配信 | 入門向けの文面で一斉配信 | BtoB・決裁権なし、または判断材料がない |
| C | C:対象外 | 個別には追わない | BtoC・ターゲット外・規模が小さすぎる/大きすぎる |
ポイントは、Cを作ったことです。大企業、大学、同業の広告代理店、個人の方は、当社のサービスが合いにくい相手です。Cを明示しておくと、Sに上げるべき相手を探すときの雑音が減ります。
判定の順番を人が決め、AIが当てはめる
判定の順番
4段階の基準を決めても、1件ずつ人が判断すると数千件は終わりません。そこで、判定の順番を固定しました。上から順に見て、最初に当てはまったところでランクが決まります。
- Cに外す:メールアドレスがない/BtoC・個人・大学・大企業・同業
- Sにする:いま提案や診断が進んでいる会社
- 問い合わせの中身で分ける:問い合わせフォームから来た人は、本文が本当の相談ならA、売り込みの営業ならB。資料請求、セミナー参加、補助金の相談、広告からのセミナー登録はA
- マーケ施策の痕跡で分ける:相手のサイトに広告タグがある、またはメールのDNS設定にCRM・MAの痕跡が確度「高」「中」で見つかればA。役員以上ならS
- 同じ会社に合わせる:同じメールドメインに既にランクの付いた人がいれば、その多数派より下げない(その会社がCなら原則C)
- どれにも当たらなければB
4のマーケ施策の痕跡は、相手の公開DNSとサイトのタグから推定しています。調べ方は相手のMA・メール基盤をDNSで推定する方法にまとめました。
AIに任せた部分、人が持った部分
AI(コーディングエージェント)に任せたのは、次の3つです。
- 判定の順番を、CRMのデータに当てはめるスクリプトにする
- 1件ずつ「なぜそのランクか」を1行で書き出す(例:「コーポレート問い合わせ・営業的な連絡」「マーケ施策実施(広告タグ)」)
- 人が承認した分だけを、CRMに書き戻す
人が持ったのは、基準と順番を決めること、判定表を見て直すこと、書き戻しを承認することです。書き戻しのときは、次の2点を守っています。
- 書き込む直前にCRMの今の値を取り直し、既にランクが入っている人は上書きしない
- CRMのワークフロー(自動メールや担当者への通知)を動かさない
Zoho CRMのAPIでは、更新のリクエストに "trigger": [] を付けると、ワークフローなどの自動処理を動かさずに書き込めます。公式ドキュメント(Insert Records API)に、trigger を空にするとワークフローを実行しないと書かれています。1回の更新は100件までなので、100件ずつに分けて送ります。
最初の一括付与
2026年8月19日に、最初の一括付与をしました。見込み客は約3,200件のうち、Aが669件、Bが2,244件、Cが262件です。見込み客の中にSはいませんでした。Sは、取引実績のある会社の連絡先のうち、役員以上の17件に付けています。取引実績のある会社の連絡先はAで235件。取引実績のない連絡先には、自動ではランクを付けず、人が判断する分として残しました。
分けた結果、何が変わったか
文面を2種類にした
ランクごとに、セミナーの案内メールの文面を分けました。
- SA向け:すでにマーケに予算を割いている層。「人が回していたPDCAをAIで回す」「外注費の説明」など、運用の置き換えを主語にする
- B以下向け:マーケにこれから取り組む層。「マーケ担当を採用する代わりに」「顧客情報の手入力をなくす」など、入門のトーンで専門用語を避ける
開封率の差
セグメントを正しく分けて送った2回の結果です(Zoho Campaignsの数字)。
| 配信日 | 宛先 | 送信数 | 開封率 | クリック | 配信停止 |
|---|---|---|---|---|---|
| 8月20日 | SA | 540 | 27.5% | 5(0.9%) | 1 |
| 8月20日 | B以下 | 1,584 | 23.0% | 1(0.1%) | 5 |
| 9月2日 | SA | 519 | 31.4% | 3(0.6%) | 0 |
| 9月2日 | B以下 | 1,573 | 27.9% | 3(0.2%) | 7 |
2回とも、SA側の開封率が3.5〜4.5ポイント高くなりました。配信停止もSA側が少なめです。ただし、件名も本文も別なので、ランクの効果だけを取り出した比較ではありません。クリック率はどちらも1%未満で、文面の改善はまだ途中です。
電話については、Sの一覧を個別に追う対象として使っています。架電の件数や結果は、まだランク別に集計していません。
落とし穴:空欄の見込み客が一斉配信に流れていた
運用を始めて1か月たった9月15日に、問題に気づきました。
配信ツール側のセグメント「B以下」の条件は「B、C、空欄」でした。新しく入った見込み客は、ランクが空欄のままです。つまり、交流会で会った人も、問い合わせをくれた人も、広告からセミナーに申し込んだ人も、全員が自動的にB向けの文面の宛先に入っていました。
8月15日から9月15日までに入った見込み客73件と連絡先3件が、未分類のままでした。作成日で絞って未分類だけを判定するスクリプトを用意し、同じ判定順で分類しました。
| S | A | B | C | |
|---|---|---|---|---|
| 見込み客(73件) | 11 | 12 | 42 | 8 |
| 連絡先(3件) | 1 | 1 | 1 | 0 |
SとAに上がったのは、見込み客23件と連絡先2件です。提案が進んでいる会社、マーケ施策の痕跡がある会社、広告からセミナーに登録した人、資料請求や補助金の相談をくれた人が入っていました。本来は個別に追うべき人が、一斉配信の文面の宛先に入っていたことになります。
分類の中身から分かったこともあります。
- 問い合わせフォームから来た12件のうち、10件は売り込みの営業でした。「問い合わせ=有望」とは限りません
- 職位が代表・役員でも、マーケ施策の痕跡がない17件はBのままにしました。当社のB向けの文面は専任のいない会社に向けて書いていて、小規模企業の代表にはその訴求が合うと判断したためです
もうひとつ、配信の側でも分け方の確認が要ります。当社では、APIで下書きを作ったときにセグメントの指定が効かず、SA向けとB向けの両方が全員に届いた回がありました。この回は、SA向けの配信停止が13件(送信数に対して約0.6%)で、正しく絞れた回の約0.2%や0%より高く出ました。現在は、送る前に配信画面で宛先の件数を確かめています。この経緯はメルマガ作成をAIに任せる範囲に書きました。
なお、当社のセグメントでは、CもB以下の一斉配信に含まれています。配信そのものからCを外したい場合は、セグメントの条件を分ける必要があります。
自社で始める最小の手順
いきなり全件に付ける必要はありません。最初は100件で試せます。
- 4段階の意味を「次にすること」で書く:S=個別に追う、A=セグメント配信、B=一斉配信、C=対象外。点数は使わない
- CRMにランクの項目を1つ作る:選択リスト(S/A/B/C)。既存の「ランク」項目と名前が紛らわしければ、別の名前にする
- 判定の順番を決める:Cの除外を最初に、デフォルトは最後にB
- 直近の100件に付ける:判定の理由を1行ずつ残す。AIに当てはめさせる場合も、理由の列は必ず出させる
- 人が表を見て直す:迷ったものは、理由の書き方を見直す
- 文面を2種類に分ける:SA向けとB以下向け。件名と冒頭の1段落だけ変えるところからでよい
- 空欄の行き先を確かめる:新しく入った人がどのセグメントに入るかを、配信ツールの条件で確認する
- 配信の前に、未分類を分類する:作成日で絞って、空欄だけを判定する
チェックリスト
- ランクの意味が「次にすること」で説明できる
- Cの基準がある(BtoC・規模外・同業など)
- 判定の順番が文書になっている
- AIが出した判定に、理由が1行ずつ付いている
- 書き戻しの前に人が見ている。既存のランクは上書きしない
- 書き戻しでワークフローや通知が動かない
- 空欄の見込み客が、どのセグメントに入るか確かめた
- 送る前に、配信画面で宛先の件数を確かめている
CRMの項目を増やしすぎない考え方は入力最小主義のCRM項目設計に、問い合わせへの初動の速さはSpeed to Leadとはにまとめています。見込み客の分け方から、配信・架電・受注までの流れを一緒に組み立てたい場合は、受注プロセス管理のページからご相談ください。
よくある質問
リードスコアリングと、S/A/B/Cのようなランク分けは何が違いますか?
リードスコアリングは、行動や属性に点数を付けて合計で優先度を決める方法です。ランク分けは、点数を出さずに「個別に追う/セグメントで送る/一斉に送る/追わない」のどれに入るかを直接決めます。当社は、点数の細かな差より、営業やメール配信の現場がすぐに使い分けられる粒度を優先しました。
ランクは誰が決めるべきですか?AIに任せてよいですか?
判定の基準と順番は人が決めます。AIに任せるのは、その基準を数千件に当てはめる作業と、判定の理由を1行ずつ書き出すところです。当社は、書き戻す前に判定表を人が見て、既にランクが入っている見込み客は上書きしないようにしています。
新しく入った見込み客のランクが空欄のままになります。どうすればいいですか?
空欄が配信のどのセグメントに入るかを、まず確かめてください。当社では「B以下」の条件が空欄を含んでいたため、未分類の見込み客は自動的に一斉配信の文面の宛先に入っていました。対策として、作成日で絞って未分類だけを判定するスクリプトを用意し、配信の前に回しています。
決裁権のある役職の人は、全員Sにすべきですか?
当社はそうしていません。代表や役員でも、マーケ施策の痕跡や問い合わせの中身がなければBのままにしています。当社のB向けの文面は、マーケの専任がいない会社に向けて書いており、小規模企業の代表にはその訴求のほうが合うと判断したためです。

